売掛金の時効は何年?時効を止める方法と注意点
こんな不安はありませんか?
未払いが長期化している場合、時効は大丈夫だろうかと心配になることがあります。また、何ヶ月も催促していないと、請求権が消えていないか不安になるでしょう。さらに、時効を止めるにはどうすればいいのかも気になるポイントです。
この記事では、売掛金の時効期間と、時効を中断する方法を解説します。
売掛金の時効は何年?
2020年4月以降の時効期間
原則5年です。
2020年4月1日の民法改正により、売掛金の時効期間は統一されました。具体的には、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早い方で時効が成立します。
具体例
ケース1: 支払期日が2024年1月31日の場合
2024年2月1日から5年後の2029年1月31日に時効が成立します。ただし、途中で時効を中断すれば、時効期間がリセットされます。
ケース2: 支払期日の定めがない場合
請求書を送付した時から5年、または商品・サービスを提供した時から10年となります。
時効前の売掛金の例外
短期消滅時効(特殊なケース)
以下のような債権は、時効期間が短くなります:
| 債権の種類 | 時効期間 |
|---|---|
| 飲食店の売掛金 | 1年 |
| 宿泊費 | 1年 |
| 弁護士・司法書士の報酬 | 3年(改正後は5年) |
| 医師の診療報酬 | 3年(改正後は5年) |
飲食店や宿泊業の方は要注意!
時効を中断する方法
時効は「中断」することで、期間をリセットできます。
1. 催促(時効の完成猶予)
効果: 時効の完成が6ヶ月延長される
催促メールや電話をするだけでは、時効は中断しません。ただし、6ヶ月間だけ時効の完成を猶予できます。
注意点
催促しただけでは時効は中断しません。しかし、6ヶ月以内に内容証明や訴訟を起こせば、時効を中断できます。
2. 内容証明郵便(時効の完成猶予)
効果: 時効の完成が6ヶ月延長される
内容証明を送ることで、6ヶ月間だけ時効の完成を猶予できます。
手続き
内容証明郵便で「支払請求書」を送り、その後6ヶ月以内に訴訟を起こすか、相手から支払いの承認を得る必要があります。
→ 内容証明の書き方
3. 訴訟提起・支払督促(時効の中断)
効果: 時効が完全にリセットされる
裁判所に訴訟や支払督促を申し立てることで、時効が完全に中断されます。
手続き
支払督促を申し立てる、少額訴訟を起こす、または通常訴訟を起こすという方法があります。
4. 相手の承認(時効の中断)
効果: 時効が完全にリセットされる
相手が「債務を認める」ことで、時効が中断されます。
承認の例
承認の具体例としては、「来月払います」とメールで返信があった場合、一部だけでも支払いがあった場合、「分割払いでお願いします」と申し出があった場合、支払猶予の申し出があった場合などが該当します。
注意点
承認があった場合は、必ず証拠を残すことが重要です。メール、録音、書面などの形で記録を保存しましょう。口頭だけでは証明が難しいため、文書化された証拠が不可欠です。
時効を止めるための実務的な対応
ステップ1: 定期的に催促する
最低でも6ヶ月に1回は催促しましょう。
催促することで、時効の完成を6ヶ月延長できます。
ステップ2: 内容証明を送る
支払期日から1ヶ月経ったら、内容証明を送りましょう。
内容証明を送ることで、時効の完成を6ヶ月延長できます。
ステップ3: 訴訟を起こす
内容証明を送っても反応がない場合、訴訟を起こしましょう。
訴訟を起こすことで、時効が完全に中断されます。
時効更新の具体的手続きと判例
訴訟提起による時効更新
訴訟を起こすことで、時効は完全に更新されます。
必要な手続き
訴訟を起こす際は、まず訴状を作成して提出します。訴状には請求の趣旨と原因を明記し、証拠書類(請求書、契約書、メールなど)を添付して裁判所に提出する必要があります。
訴訟係属中は時効は進行しません。判決確定後には、新たに10年の時効が開始されます。確定判決を得た場合、この新たな10年の時効期間は中断できないため、より長い保護期間となります。
重要判例
最高裁平成29年9月12日判決では、催告後6ヶ月以内に訴訟を提起すれば時効は中断されると判示されました。重要なのは、6ヶ月の起算日が「催告が相手に到達した日」からとなることです。
最高裁平成25年6月6日判決では、支払督促の申立ても時効中断効があると認められました。ただし、相手が異議を申し立てると訴訟に移行することになります。
債務承認書の取得と活用
債務承認書とは
相手に「債務を認めます」と書面で承認させることで、時効を完全に中断できます。
債務承認書テンプレート
債務承認書
株式会社〇〇 御中
私(当社)は、貴社に対し、下記の債務があることを承認します。
記
1. 債務の内容
請求書番号: INV-202501-001
契約日: 2024年10月1日
債務の発生原因: 〇〇業務委託契約に基づく未払金
2. 債務金額
金100,000円(消費税込)
3. 支払期日
2025年1月31日
4. 支払方法
下記口座に振込
〇〇銀行 〇〇支店 普通 1234567
株式会社〇〇
上記の債務について、異議なく承認いたします。
2025年2月15日
住所: 〇〇県〇〇市〇〇1-2-3
氏名: 〇〇 〇〇 印
債務承認書の取得方法
パターン1: 分割払いの合意時
「分割払いでお願いします」という申し出があった場合、必ず書面で債務承認書を取得しましょう。
パターン2: 一部支払いがあった場合
一部でも支払いがあった場合、残債務について債務承認書を取得しましょう。
パターン3: 「後で払います」と言われた場合
口頭での約束だけでなく、必ず書面またはメールで「いつまでに払う」という承認を得ましょう。
電子メールでの債務承認
書面でなくても、メールで承認があれば時効は中断されます。
メールで承認を得る方法
メールで承認を得る際は、まず質問形式で「現在の未払金は100,000円で間違いないでしょうか?」と送るのが効果的です。また、「お支払い予定日を教えていただけますか?」と確認を求めることも有効です。相手から「来月末に払います」という返信があれば、それが証拠となり時効は中断されますので、必ず保存しておきましょう。
時効援用阻止の実践戦術
時効援用とは
相手が「時効だから払わない」と主張することを「時効援用」と言います。
時効援用を阻止する方法
戦術1: 相手に時効を知らせない
時効が成立していても、相手が知らなければ請求は可能です。「時効が近いので早く払ってください」とは言わず、「お支払いをお願いします」と通常の催促を続けることが重要です。
戦術2: 一部でも払わせる
一部でも支払いがあれば、債務を承認したことになり、時効は中断されます。「全額は難しくても、まず1万円だけでもお支払いいただけませんか?」と提案することで、一部支払いがあった時点で時効は完全にリセットされます。
戦術3: 分割払いの合意を取る
「分割払いでお願いします」という申し出があれば、必ず書面で合意を取りましょう。分割払いの合意は債務の承認となり、時効は完全に中断されます。
戦術4: 和解契約を結ぶ
裁判外でも、和解契約書を作成すれば時効は中断されます。
和解契約書
株式会社〇〇(以下「甲」という)と〇〇〇〇(以下「乙」という)は、
以下の通り和解する。
第1条(債務の確認)
乙は、甲に対し、金100,000円の債務があることを認める。
第2条(支払方法)
乙は、甲に対し、前条の金員を以下の通り分割して支払う。
・第1回: 2025年3月末日 30,000円
・第2回: 2025年4月末日 30,000円
・第3回: 2025年5月末日 40,000円
第3条(期限の利益喪失)
乙が前条の支払いを1回でも怠った場合、期限の利益を失い、
残金全額を直ちに支払わなければならない。
2025年2月15日
甲: 株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 印
乙: 〇〇 〇〇 印
時効が迫っている緊急対応フロー
緊急度チェックリスト
以下の項目に当てはまる場合、今すぐ対応が必要です。
- ☑ 支払期日から4年6ヶ月以上経過している
- ☑ 直近6ヶ月以内に相手と連絡を取っていない
- ☑ 債務承認を得ていない
- ☑ 内容証明も訴訟も起こしていない
緊急対応フロー(時効まで6ヶ月未満の場合)
ステップ1: 即座に内容証明を送る(当日中)
今すぐ内容証明郵便を送りましょう。
- 内容証明を送ることで、6ヶ月間だけ時効の完成を猶予できます
- 郵便局の窓口で即日発送可能
→ 内容証明の書き方
ステップ2: 弁護士に相談(翌日まで)
内容証明を送った後、すぐに弁護士に相談しましょう。
- 6ヶ月以内に訴訟を起こす必要があります
- 弁護士に依頼すれば、迅速に訴訟準備を進められます
ステップ3: 訴訟または支払督促の申立(5ヶ月以内)
内容証明送付から5ヶ月以内に、訴訟または支払督促を申し立てましょう。
- 訴訟を起こすことで、時効は完全に中断されます
- 支払督促でも時効中断効があります
→ 支払督促の手続き
緊急対応フロー(時効まで1ヶ月未満の場合)
この段階では、迷っている時間はありません。
即日対応が必要
今日中に内容証明を郵便局の窓口に直接持参し、配達証明付きで送ることが最優先です。同じく今日中に弁護士に連絡し、時効が迫っていることを伝えて訴訟準備を依頼しましょう。
訴状の準備は1週間以内に行い、弁護士と協力して訴状を作成し、証拠書類を揃えます。そして3週間以内に裁判所に訴状を提出して訴訟を提起します。訴訟が係属すれば、時効は完全に中断されます。
時効完成後の選択肢
時効が完成してしまった場合でも諦めない
時効が完成していても、以下の方法で回収できる可能性があります。
選択肢1: 相手が時効を知らない可能性に賭ける
**相手が時効を知らなければ、請求は可能です。**通常通り催促を続けましょう。その際、「時効」という言葉は絶対に使わないことが重要です。相手が任意で払ってくれる可能性があります。
選択肢2: 時効完成後の債務承認を得る
**時効完成後でも、相手が債務を承認すれば、時効は援用できなくなります。**一部でも支払いがあれば債務承認と見なされますし、「分割で払います」という約束も債務承認になります。
選択肢3: 時効の中断事由があったことを証明する
**時効が完成していないことを証明できれば、請求は可能です。**過去に債務承認があったこと、過去に訴訟を起こしていたこと、過去に相手から「払います」というメールがあったことなどを証明できれば有効です。
2020年民法改正の実務影響
改正前と改正後の違い
| 項目 | 改正前(2020年3月31日まで) | 改正後(2020年4月1日以降) |
|---|---|---|
| 時効期間 | 業種によって異なる(1年〜10年) | 原則5年 |
| 飲食店の売掛金 | 1年 | 5年 |
| 宿泊費 | 1年 | 5年 |
| 弁護士報酬 | 3年 | 5年 |
| 医師の診療報酬 | 3年 | 5年 |
経過措置
改正前に発生した債権は、改正前の時効期間が適用されます。
具体例
ケース1: 2019年12月発生の飲食店売掛金
- 改正前のルール適用 → 時効期間は1年
- 2020年12月で時効成立
ケース2: 2020年5月発生の飲食店売掛金
- 改正後のルール適用 → 時効期間は5年
- 2025年5月で時効成立
実務への影響
メリット: 時効期間が延びた
飲食店や宿泊業の売掛金の時効期間が5年に延長されたことで、より長期間にわたって債権を保護できるようになりました。
注意点: 起算日の確認が重要
「権利を行使できることを知った時」の証明が必要となるため、請求書を送った日付の記録が重要です。
時効中断の判例集
判例1: メールでの「払います」は債務承認になる
東京地裁令和元年10月15日判決
事案
- 債務者がメールで「来月払います」と返信
- その後、支払いがなく時効が成立
判決
- メールでの「払います」という発言は債務承認に該当
- 時効は中断される
実務への影響
メールやLINEでの「払います」という発言も証拠として認められるため、必ず記録を保存しておくことが重要です。
判例2: 一部支払いは債務承認になる
大阪高裁平成28年7月21日判決
事案
- 債務者が100万円の債務のうち、1万円だけ支払った
- その後、支払いがなく時効が成立
判決
- 一部支払いは債務全体の承認と見なされる
- 時効は中断される
実務への影響
一部でも払ってもらえれば時効は中断されるため、「少額でもいいので払ってください」と交渉する価値があります。
判例3: 内容証明後6ヶ月を1日でも過ぎると時効完成
最高裁平成29年9月12日判決
事案
- 内容証明を送った後、6ヶ月と1日後に訴訟を提起
- 債務者が時効援用を主張
判決
- 内容証明の効果は送達から6ヶ月のみ
- 6ヶ月を1日でも過ぎると時効は完成する
実務への影響
内容証明を送ったら、必ず6ヶ月以内に訴訟を起こす必要があります。期限管理が非常に重要です。
時効が成立するとどうなる?
時効が成立した場合
相手が「時効だから払わない」と主張すれば、請求権は消滅します。
ただし、相手が時効を主張しない限り、請求は可能です。
時効が成立しても諦めないケース
相手が時効を知らない場合、請求すれば払ってくれる可能性があります。また、相手が「承認」すれば、時効は中断されます。
よくある質問
Q1: 何年も前の未払いがあるけど、今から請求できる?
A: 5年以内なら請求可能です。
ただし、相手が「時効だ」と主張すれば、請求権は消滅します。早めに催促しましょう。
Q2: 催促メールを送っていれば時効は大丈夫?
A: 催促だけでは時効は中断しません。
催促は「時効の完成猶予」(6ヶ月延長)の効果しかありません。時効を完全に中断するには、訴訟を起こすか、相手の承認を得る必要があります。
Q3: 内容証明を送れば時効は止まる?
A: 6ヶ月間だけ止まります。
内容証明を送ることで、時効の完成を6ヶ月延長できます。その6ヶ月以内に訴訟を起こせば、時効は完全に中断されます。
Q4: 相手が「払います」と言ったら時効は中断する?
A: はい、中断します。
相手が債務を承認すれば、時効は完全に中断されます。ただし、証拠を残すことが重要です。メールやLINEなどの記録を保存しましょう。
Q5: 時効が完成したら絶対に請求できない?
A: 相手が時効援用しない限り、請求は可能です。
時効が完成していても、相手が「時効だから払わない」と主張しない限り、請求権は消滅しません。通常通り催促を続けることで、任意で払ってもらえる可能性があります。
Q6: 時効が迫っているが、相手の住所が分からない場合は?
A: 公示送達という方法があります。
相手の住所が分からない場合でも、裁判所に「公示送達」を申し立てることで、訴訟を起こすことができます。弁護士に相談しましょう。
Q7: 支払督促でも時効は中断する?
A: はい、中断します。
支払督促の申立ても時効中断事由に該当します。ただし、相手が異議を申し立てると通常訴訟に移行します。
Q8: 時効が完成した後に一部でも払ってもらえば、残額も請求できる?
A: はい、請求できます。
時効完成後でも、相手が一部でも支払えば債務を承認したことになり、時効援用はできなくなります。残額全額を請求できます。
Q9: 内容証明を送ったが、受取拒否された場合は?
A: 受取拒否でも時効の完成猶予効果はあります。
内容証明が受取拒否された場合でも、「到達した」と見なされるため、時効の完成猶予効果はあります。必ず配達証明を取得しておきましょう。
Q10: 時効を止めるために何度も訴訟を起こすことはできる?
A: はい、可能です。
一度訴訟を起こして判決を得た後、再度時効が進行します(判決確定後10年)。その時効が迫った場合、再度訴訟を起こすこともできます。
Q11: 相手が倒産した場合、時効はどうなる?
A: 倒産手続き中は時効が中断されます。
破産手続きや民事再生手続きが開始されると、時効は中断されます。ただし、手続きが終了すると再び時効が進行します。
Q12: 時効の起算日はいつから?
A: 原則として支払期日の翌日からです。
支払期日が2024年1月31日の場合、時効の起算日は2024年2月1日です。5年後の2029年1月31日に時効が成立します。
Q13: 弁護士に依頼すれば時効は止まる?
A: 弁護士に依頼するだけでは止まりません。
弁護士に依頼しても、訴訟を起こすか、相手から債務承認を得ない限り、時効は中断されません。弁護士と相談して、早めに訴訟を起こしましょう。
Q14: 時効が完成する前日に内容証明を送れば間に合う?
A: 間に合いますが、リスクがあります。
内容証明が相手に到達するまでに数日かかります。時効完成前日に送っても、到達が時効完成後になる可能性があります。余裕を持って送りましょう。
Q15: 時効完成後に和解契約を結んだら、また請求できる?
A: はい、請求できます。
時効完成後でも、相手と和解契約を結べば、債務を承認したことになり、時効援用はできなくなります。和解契約書を必ず作成しましょう。
まとめ
| 方法 | 効果 | 期間 |
|---|---|---|
| 催促(メール・電話) | 時効の完成猶予 | 6ヶ月延長 |
| 内容証明郵便 | 時効の完成猶予 | 6ヶ月延長 |
| 訴訟・支払督促 | 時効の中断 | リセット |
| 相手の承認 | 時効の中断 | リセット |
時効が近づいている場合は、早めに内容証明や訴訟を検討しましょう。
参考情報
本記事は以下の公的情報に基づいて作成されています:
- 民法(債権関係)改正(2020年4月1日施行)
- 民事訴訟法
- 裁判所|支払督促
- 裁判所|少額訴訟
免責事項
重要な注意事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言ではありません。時効に関する判断は専門的な知識を要するため、必ず弁護士や司法書士にご相談ください。本記事の情報を使用した結果生じた損害について、当サイトは一切の責任を負いません。また、時効の起算日や中断事由は個別の事情によって異なりますので、専門家への相談を強く推奨します。
最終更新: 2025年10月31日
次のステップ
時効を止めるために、具体的なアクションを起こしましょう。
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フェーズ1
まだ関係を維持しながら催促したい
1〜2回目の催促段階で、相手との関係を維持しながら入金を促したい方
- ✓未入金案件を自動でリスト化
- ✓催促メールをテンプレで送信
- ✓対応履歴を自動記録
フェーズ2
法的手続きを検討している
2〜3回催促しても反応がなく、内容証明や法的手続きを検討している方
- ✓弁護士・司法書士による無料相談
- ✓回収可能性を客観的に判断
- ✓内容証明〜訴訟まで代行可能
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