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建設業・下請け取引の未払い対策|建設業法の活用方法

✍️編集部

建設業界特有の未払いリスク

建設業界では、元請から下請へ、さらに孫請へと多重下請け構造が形成されており、未払いトラブルが発生しやすい環境にあります。工事完了後の後払いが慣習であること、口頭での追加工事の合意が多いこと、元請の倒産リスクなど、建設業ならではの未払いリスクが存在します。

しかし、建設業界には「建設業法」という法律があり、下請業者を保護する規定が整備されています。この法律を正しく理解し、活用することで、未払いリスクを大幅に減らすことができます。

この記事では、建設業の下請業者や一人親方に向けて、未払い対策と建設業法の活用方法を詳しく解説します。

建設業界で未払いが発生しやすい4つの理由

理由1: 多重下請け構造

建設業界では、元請から1次下請、2次下請、3次下請と、多層構造になっていることが一般的です。この構造が未払いリスクを高めています。

中間のどこかで支払いが滞ると、連鎖的に未払いが発生します。例えば、元請から1次下請への支払いが遅れると、1次下請から2次下請への支払いも遅れ、最終的に末端の下請業者が資金繰りに困窮するという構造です。自分には何の落ち度もないのに、上流の支払い遅延の影響を受けてしまうのです。

理由2: 後払いの慣習

建設業では、工事完了後に検収を行い、その後に支払いが行われるため、下請業者は常に資金を立て替えている状態です。材料費、人件費、機材費などをすべて先に支払い、工事代金の回収は後になります。

工事期間が長期にわたる場合、立て替え期間も数ヶ月に及ぶことがあり、資金繰りが厳しくなります。特に小規模な下請業者にとっては、大きな負担です。

理由3: 工事の追加・変更

当初の契約にない追加工事や設計変更が、現場で口頭で合意されることが多いのも問題です。「ついでにこれもやっておいて」と言われて対応したものの、後から「そんな合意はしていない」とトラブルになるケースがあります。

書面での合意がないため、証拠が残らず、支払いを拒否されても反論できません。善意で対応したことが、逆に損失につながってしまうのです。

理由4: 元請の倒産リスク

建設業界では、元請業者の倒産リスクも無視できません。元請業者が倒産すると、下請業者への支払いが停止します。工事代金が回収できないだけでなく、すでに投入した材料費や人件費も回収不能になります。

大規模な工事ほど、この損失は大きくなります。数百万円、場合によっては数千万円の債権が一気に消えてしまうこともあるのです。

建設業法による下請業者の保護

建設業界には「建設業法」という法律があり、下請業者を保護するための規定が設けられています。

建設業法とは

建設業法は、建設業の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を図ることを目的とした法律です。この中には、下請業者を保護するための重要な規定が含まれています。

建設業法の主な保護規定

建設業法には、下請業者を守るための重要な規定がいくつもあります。

規定1: 下請代金の支払期日(建設業法第24条の3)

元請業者は、下請業者から工事の目的物の引渡しを受けた日(検収日)から50日以内に、下請代金を支払わなければなりません。これは法律で定められた義務であり、違反すると行政処分の対象になります。この規定を知っているだけで、催促の際の説得力が大きく変わります。

規定2: 書面による契約(建設業法第19条)

請負契約は必ず書面で行わなければなりません。口頭での合意だけでは、建設業法違反です。契約書には、工事内容、請負代金の額、支払時期と方法など、法律で定められた事項を記載する必要があります。

規定3: 不当に低い請負代金の禁止(建設業法第19条の3)

元請業者が、通常必要と認められる原価に満たない金額で下請契約を締結することは禁止されています。いわゆる「買いたたき」を防ぐ規定です。相場よりも著しく安い金額での発注は、違法です。

規定4: 特定建設業者の下請代金支払いの特例

特定建設業の許可を受けている元請業者は、発注者からの入金の有無にかかわらず、下請代金を支払う義務があります。「発注者から入金がないから払えない」という言い訳は、法律上通用しません。

下請代金の支払期日ルール(50日以内)

建設業法第24条の3は、下請業者にとって最も重要な規定の一つです。

支払期日の計算方法

元請業者は、下請業者から工事の目的物の引渡しを受けた日(検収日)から50日以内に、下請代金を支払わなければなりません。

計算例

  • 工事完了日: 2025年1月31日
  • 検収日: 2025年2月5日
  • 支払期日: 2025年3月27日まで(検収日から50日以内)

この期日を過ぎても支払いがない場合、建設業法違反となります。

違反した場合の罰則

支払期日を守らない元請業者は、建設業法違反として、次のような行政処分の対象になります。

まず、行政庁から指導・勧告が行われます。それでも改善されない場合は、営業停止処分が下されることもあります。最も重い処分は建設業許可の取消で、これを受けると建設業を営むことができなくなります。

下請業者は、この規定を根拠に、元請業者に強く支払いを求めることができます。「建設業法違反ですよ」と伝えるだけで、対応が変わることも少なくありません。

建設業法に基づく契約書の必須項目

建設業法第19条では、請負契約書に記載すべき事項が定められています。

契約書の必須記載事項(一部抜粋)

  1. 工事内容
  2. 請負代金の額
  3. 工事着手の時期および工事完成の時期
  4. 請負代金の支払時期および方法
  5. 設計変更や工事の中止があった場合の工期・代金の変更方法
  6. 天災その他不可抗力による工期の変更や損害の負担方法
  7. 工事完成後の請負代金の支払時期および方法
  8. 工事の検査の時期および方法
  9. 契約に関する紛争の解決方法

これらの事項が記載されていない契約書は、建設業法違反となります。

口頭契約のリスク

建設業界では、口頭で工事を依頼されることも少なくありませんが、これは建設業法違反です。書面がない場合、支払いトラブルが発生した際に証拠を示すことが困難になります。

必ず書面で契約を締結し、上記の必須項目が記載されているか確認しましょう。

未払いが発生した場合の対処法(建設業特有)

建設業で未払いが発生した場合、建設業法を根拠にして対応することが有効です。

ステップ1: 元請に催促(建設業法を明記)

まずはメールまたは書面で催促し、建設業法の支払期日(50日以内)を明記します。

催促文面の例

〇〇建設株式会社
〇〇様

いつもお世話になっております。

下記工事の請負代金につきまして、建設業法第24条の3に基づく支払期日(検収日から50日以内)を過ぎておりますが、本日時点で入金を確認できておりません。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【工事情報】
・工事名: 〇〇工事
・工事完了日: 2025年1月31日
・検収日: 2025年2月5日
・請負代金: 300万円
・支払期日: 2025年3月27日(既に経過)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

つきましては、速やかにお支払いをお願いいたします。

なお、建設業法違反の状態が継続する場合、やむを得ず建設業許可行政庁への相談も検討させていただきます。

何卒ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

建設業法を明記することで、「これは法律違反だ」というプレッシャーを与えることができます。

ステップ2: 建設業許可行政庁への相談

催促に応じない場合は、都道府県の建設業許可担当課または国土交通省の地方整備局に相談します。

相談内容として、次のようなことを伝えます。

  • 元請業者名と建設業許可番号
  • 工事内容と請負代金額
  • 検収日と支払期日
  • 現在の状況(何度催促しても支払われない)

行政庁が元請業者に事情聴取を行い、指導・勧告を行います。改善されない場合は、営業停止や許可取消などの行政処分が下されることもあります。

ステップ3: 駆け込みホットラインへの通報

国土交通省が設置している「建設業法令遵守推進本部」の駆け込みホットラインに通報することもできます。匿名での通報も可能です。

通報できる内容は次のとおりです。

  • 支払期日違反
  • 書面契約なし
  • 不当に低い代金での発注
  • 一括下請の禁止違反

ステップ4: 弁護士に相談

高額案件の場合や、行政への相談でも解決しない場合は、弁護士に相談して法的手続きを検討します。少額訴訟支払督促などの手続きがあります。

建設業許可行政庁への相談方法

建設業許可行政庁への相談は、建設業法違反を是正する有効な手段です。

相談先

  • 都道府県の建設業許可担当課: 都道府県知事許可の業者の場合
  • 国土交通省の地方整備局: 国土交通大臣許可の業者の場合

相談先は、元請業者がどちらの許可を受けているかによって異なります。

相談の流れ

  1. 相談窓口に連絡(電話またはメール)
  2. 状況を説明し、証拠書類(契約書、請求書、催促メールなど)を提出
  3. 行政庁が元請業者に事情聴取
  4. 指導・勧告
  5. 改善されない場合、営業停止・許可取消

行政庁の対応は、元請業者にとって非常に重いプレッシャーになります。多くの場合、指導・勧告の段階で支払いが行われます。

未払い予防策(建設業特有)

未払いトラブルを防ぐには、次の予防策が有効です。

予防策1: 契約書を必ず作成

口頭での合意は絶対に避け、必ず書面で契約を締結しましょう。建設業法第19条の必須記載事項がすべて記載されているか確認します。

予防策2: 出来高払いの導入

工事の進捗に応じて部分的に支払いを受ける出来高払いを導入することで、未払いリスクを分散できます。

例えば、工事全体が500万円の場合、次のように段階的に支払いを受けます。

  • 着手時: 100万円(20%)
  • 中間時: 200万円(40%)
  • 完了時: 200万円(40%)

予防策3: 前払金の設定

着手金として、請負代金の30%程度を先払いしてもらうことで、材料費や初期費用をカバーできます。

予防策4: 元請の与信チェック

新規の元請業者と取引する際は、必ず与信チェックを行いましょう。

  • 建設業許可の有無と許可番号を確認
  • 過去の支払い実績を確認
  • 財務状況を確認(可能であれば)

信用情報調査会社(帝国データバンク、東京商工リサーチ)のレポートを取得することも有効です。

予防策5: 追加工事は必ず書面で

追加工事や設計変更があった場合は、必ず書面で合意を残しましょう。追加契約書または変更契約書を作成し、工事内容と追加代金を明記します。

元請が倒産した場合の対処法

元請業者が倒産した場合、下請業者は次の対処を取る必要があります。

対処法1: 建設工事紛争審査会への申立て

都道府県に設置されている建設工事紛争審査会に、あっせん、調停、仲裁を申し立てることができます。比較的簡易で費用も低額です。

対処法2: 破産管財人への債権届出

元請業者が破産手続きを開始した場合、破産管財人に債権届出書を提出します。他の債権者と按分して配当を受けることになりますが、全額回収できる可能性は低いです。

対処法3: 未払賃金立替払制度の活用

従業員の給料が未払いの場合、労働基準監督署に相談し、未払賃金立替払制度を利用できます。国が未払賃金の一部を立て替えてくれる制度です。

追加工事の代金を確実に回収する方法

建設業では、追加工事が口頭で合意されることが多く、トラブルの原因になります。

追加工事の記録方法

追加工事が発生した場合は、次のように記録を残しましょう。

  1. 追加工事の内容を書面で確認(メールでも可)
  2. 追加工事の金額を見積書で提示し、承認を得る
  3. 追加契約書または変更契約書を作成
  4. 元請業者の署名・捺印をもらう

追加工事の請求方法

追加工事が完了したら、速やかに追加請求書を発行します。当初の請負契約とは別に、追加工事分を明記して請求しましょう。

まとめ: 建設業法を活用して未払いを防ぐ

建設業界では、建設業法という強力な保護規定があります。下請業者は、この法律を正しく理解し、活用することで、未払いリスクを大幅に減らすことができます。

次のポイントを実践しましょう。

  • 契約書を必ず作成し、建設業法の必須記載事項を確認する
  • 支払期日(検収日から50日以内)を明確にする
  • 出来高払いや前払金を導入し、リスクを分散する
  • 元請の与信チェックを行う
  • 追加工事は必ず書面で合意を残す
  • 未払いが発生したら、建設業法を根拠に催促する
  • 行政庁への相談も視野に入れる

建設業法は、下請業者を守るための法律です。遠慮せずに、この法律を活用して、正当な権利を主張しましょう。

関連記事として、契約書の支払い条項弁護士に依頼するタイミングも参考にしてください。


免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、建設業に詳しい弁護士など専門家にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1: この方法は法的に問題ありませんか?

A1: はい、問題ありません。本記事で紹介している方法は、すべて法律に基づいた正当な手段です。ただし、実施の際は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

Q2: 初心者でも実践できますか?

A2: はい、できます。本記事では、初めて対応する方でも理解できるよう、具体的な手順を分かりやすく解説しています。不安な場合は、まず専門家に相談してから進めると安心です。

Q3: 費用はどのくらいかかりますか?

A3: 対応方法によって異なります。自社で対応する場合は人件費のみですが、弁護士や債権回収会社に依頼する場合は、別途費用が発生します。詳しくは本記事の該当セクションをご参照ください。

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