強制執行の手続き|判決を取った後の債権回収方法
この記事は誰のため?
この記事は、以下のような状況でお困りの方に向けて書かれています:
- 判決を取ったが、相手が任意に支払わない
- 強制執行の具体的な手続きを知りたい
- どの財産を差し押さえるべきかわからない
この記事を読むことで、強制執行の具体的な手続きと成功率を上げる方法がわかり、確実に債権を回収できます。
強制執行とは何か
強制執行は、民事執行法に基づく法的手続きで、裁判所の力を借りて、相手の財産を強制的に差し押さえる制度です。
法的根拠
強制執行は、民事執行法(昭和54年法律第4号)に規定されています。債務名義(判決、支払督促など)を持っている債権者が、債務者の財産を差し押さえ、強制的に債権を回収できます。
強制執行の前提条件
強制執行を行うには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
条件1: 債務名義がある
債務名義とは、強制執行の根拠となる公的な文書です。
確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、和解調書、公正証書(執行認諾約款付き)などが債務名義になります。
条件2: 債務名義が確定している
判決の場合、相手が控訴せずに確定している必要があります。確定には、判決から2週間経過後という期間があります。
条件3: 相手の財産の所在がわかっている
強制執行は、どの財産を差し押さえるかを特定する必要があります。
相手の財産がわからない場合、強制執行はできません。これが強制執行の最大の難関です。
差押え対象の種類
強制執行で差し押さえられる財産は、大きく4種類に分かれます。
1. 給料(債権執行)
相手が会社員の場合、給料を差し押さえることができます。
差押え可能額は、手取り給料の1/4までです。ただし、手取り33万円を超える部分は全額差押え可能です。
例えば手取り給料40万円の場合、33万円までの1/4が8.25万円、33万円を超える部分が7万円なので、合計差押え可能額は15.25万円となります。
メリットは、毎月継続的に回収でき、完済まで差押えが続く点です。デメリットは、勤務先を知る必要があることと、相手が退職すると差押えが終了することです。
2. 銀行預金(債権執行)
相手の銀行口座を差し押さえます。差押え範囲は口座残高の全額です。
メリットは、一括で回収でき、手続きが比較的簡単な点です。デメリットは、口座の銀行・支店を特定する必要があることと、残高がなければ回収できないことです。
3. 不動産(不動産執行)
相手が不動産を所有している場合、競売にかけて回収します。対象は土地、建物、マンションです。
メリットは、高額回収の可能性があることと、登記簿で所有がわかることです。デメリットは、時間がかかる(半年から1年以上)、費用が高い(予納金が数十万円)、抵当権がある場合回収できない可能性があることです。
4. 動産(動産執行)
相手の家財道具、車などを差し押さえます。対象は家具、家電、車、貴金属です。
メリットは、執行官が現地訪問して差し押さえることと、目に見える効果があることです。デメリットは、換価価値が低い(ほとんど値段がつかない)、生活必需品は差押え不可なことです。動産執行は最終手段と考えましょう。
おすすめの差押え対象(優先順位)
優先順位1: 銀行預金
最も効率的で、成功率が高い方法です。
一括で回収でき、手続きが比較的簡単で、費用が安いのが理由です。必要な情報は、銀行名、支店名、口座種類(普通/当座)です。
優先順位2: 給料
継続的に回収できる方法です。
毎月確実に回収でき、相手が会社員なら有効です。必要な情報は、勤務先の会社名と会社の所在地です。
優先順位3: 不動産
高額案件の場合に有効です。
高額回収の可能性があり、登記簿で所有がわかります。ただし、時間と費用がかかり、抵当権があると優先順位が下がる点に注意が必要です。
優先順位4: 動産
最終手段です。換価価値が低く、費用倒れの可能性があります。

強制執行の流れ(銀行預金の場合)
最も一般的な銀行預金の差押えの流れを解説します。
ステップ1: 債務名義の取得
判決、支払督促などの債務名義を取得します。
ステップ2: 執行文の付与
執行文とは、「この債務名義に基づいて強制執行できる」という証明書です。
申請先は判決を出した裁判所の書記官です。必要書類は債務名義(判決正本など)と申請書で、手数料は300円です。
ステップ3: 送達証明書の取得
判決が相手に送達されたことの証明書です。申請先は判決を出した裁判所の書記官で、手数料は150円です。
ステップ4: 差押え申立書の作成
債権差押命令申立書を作成します。記載内容は、債権者(あなた)の情報、債務者(相手)の情報、第三債務者(銀行)の情報、請求債権額です。
ステップ5: 簡易裁判所に申立て
管轄裁判所は、相手の住所地を管轄する簡易裁判所です。
提出書類は、債権差押命令申立書、債務名義(判決正本など)、執行文、送達証明書、相手の戸籍謄本(住所確認用)です。手数料は収入印紙4,000円と郵便切手約3,000円です。
ステップ6: 差押命令の発付
申立てから約1〜2週間で、裁判所から差押命令が発付されます。差押命令は、銀行と相手に送達されます。
ステップ7: 取立て
差押命令が第三債務者(銀行)に送達されてから1週間後に、銀行から直接回収できます。
銀行に連絡し、「債権差押命令に基づき取立てをしたい」と伝えます。銀行が口座残高を振り込んでくれます。
強制執行に必要な書類
必須書類
債務名義(判決正本など)、執行文、送達証明書、差押え申立書、相手の戸籍謄本(住所確認用)、第三債務者の情報(銀行の場合: 銀行名、支店名、口座種類)が必要です。
取得方法
債務名義は判決を出した裁判所から取得、執行文は裁判所書記官に申請、送達証明書は裁判所書記官に申請、戸籍謄本は市区町村役場で取得します。
相手の財産を調べる方法
強制執行の最大の難関は、相手の財産を特定することです。
銀行口座の調べ方
方法1: 過去の振込明細から推測
過去に相手に振り込んだことがあれば、その銀行が候補です。
方法2: 取引履歴から銀行を特定
相手からの振込があれば、振込元の銀行がわかります。
方法3: 弁護士会照会(弁護士に依頼)
弁護士に依頼すると、弁護士会照会により銀行に問い合わせできます。費用は弁護士費用として10万円からです。
勤務先の調べ方
方法1: 契約書、名刺、SNSから推測
契約時の名刺や、LinkedInなどのSNSで勤務先がわかることがあります。
方法2: 探偵に依頼
探偵に依頼して、相手の勤務先を調査してもらいます。費用は10万円から30万円です。
不動産の調べ方
方法1: 登記簿謄本を取得
相手の住所地で登記簿謄本を取得すると、不動産の所有がわかります。取得先は法務局で、費用は1通600円です。
方法2: 固定資産税の課税台帳
市区町村役場で固定資産税の課税台帳を閲覧できます(債権者は閲覧可能)。
費用
債権執行(銀行預金・給料)の場合
手数料(収入印紙)が4,000円、郵便切手が約3,000円、執行文の付与が300円、送達証明書が150円で、合計約7,500円です。
不動産執行の場合
手数料が数万円、予納金が数十万円から(競売の費用)で、合計数十万円からかかります。
強制執行の成功率を上げるコツ
コツ1: 相手の財産を正確に特定する
銀行の支店まで特定することが重要です。銀行名だけでは差押えできません。支店名まで特定しましょう。
コツ2: 複数の財産を同時に差し押さえる
複数の銀行口座を同時に差し押さえることで、回収率が上がります。
コツ3: 早めに申立てる
相手が財産を隠す前に、早めに強制執行を申し立てましょう。
強制執行ができない・失敗するケース
ケース1: 相手に財産がない
預金残高がゼロ、無職で給料がない場合、強制執行しても回収できません。
ケース2: 財産の所在がわからない
銀行がわからない、勤務先不明の場合、差押えできません。
ケース3: 相手が夜逃げ・所在不明
住所がわからない場合、強制執行の申立てができません。
対処法
財産調査を徹底する、弁護士に依頼して弁護士会照会を利用する、探偵に依頼して勤務先を調査するといった方法があります。
弁護士に依頼すべきタイミング
自分でできるケース
相手の財産(銀行口座や勤務先)がはっきりしている、手続きに時間をかけられる、債権額が少額(50万円以下)の場合は自分でできます。
弁護士に依頼すべきケース
相手の財産が不明(弁護士会照会が必要)、手続きが複雑(不動産執行など)、高額案件(100万円以上)の場合は弁護士への依頼を検討しましょう。
費用
着手金が10〜30万円、成功報酬が回収額の10〜20%です。
例えば債権額100万円を全額回収した場合、着手金20万円、成功報酬が100万円×15%=15万円で、合計弁護士費用35万円、手取りは65万円となります。
よくある質問(FAQ)
Q: 強制執行は必ず成功する?
A: 必ず成功するわけではありません。
相手に財産がない場合、強制執行しても回収できません。
Q: 差し押さえた後、相手との関係は?
A: 強制執行を行うと、関係は完全に決裂します。
今後の取引を考えるなら、強制執行の前に和解を検討しましょう。
Q: 費用倒れにならない?
A: 債権額が少額(10万円以下)の場合、費用倒れになる可能性があります。
判断基準として、債権額30万円以上なら検討の価値あり、債権額10万円以下なら諦めるか、費用対効果を慎重に判断しましょう。
Q: 相手が「お金がない」と言っている場合は?
A: 「お金がない」と言っていても、実際には財産があるケースもあります。
登記簿や銀行口座を調査して、本当に財産がないか確認しましょう。
まとめ
強制執行は、判決を取った後の最終手段です。
チェックリスト
申立て前に以下を確認しましょう。
債務名義(判決、支払督促など)がある、債務名義が確定している、相手の財産(銀行口座、勤務先など)がわかっている、執行文を取得した、送達証明書を取得した、差押え申立書を作成した、収入印紙と郵便切手を準備した。
手続きの流れ(まとめ)
- 債務名義の取得
- 執行文の付与
- 送達証明書の取得
- 差押え申立書の作成
- 簡易裁判所に申立て
- 差押命令の発付(1〜2週間)
- 第三債務者(銀行)に送達
- 1週間後に取立て
おすすめの差押え対象
- 銀行預金(最も効率的)
- 給料(継続的に回収)
- 不動産(高額案件の場合)
- 動産(最終手段)
強制執行は、相手の財産を正確に特定することが成功のカギです。銀行口座や勤務先がわかっている場合、自分で手続きできます。財産が不明な場合は、弁護士に依頼して弁護士会照会を利用しましょう。
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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な法的問題については、弁護士等の専門家にご相談ください。
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